『老舗の伝統と〈近代〉:家業経営のエスノグラフィー』
塚原伸治著、吉川弘文館、2014年
日時: 2015年 2月 6日(金) 13時~ 17 時分(予定)
*筑波人類学研究会 第16 回定例会と合同
会場: 筑波大学 総合研究棟(本部棟向い)A108
13:00-15:00 <筑波人類学研究会 第 16回定例会>
13:00 -13:50 研究発表
- 発表:長谷川悟郎 (筑波大学人文社会系・助教)
- 「機織りと村落開発:マレーシア農耕民イバンの生業からの考察」
- イバン人の機織りについて、その商業開発のはかどらない状況を、国家の開発の文脈にそって彼らの生業観から理解を試みる。ボルネオ島の在来民社会では、染織は日常生活における儀礼用の布づくりとして行なわれてきた。その文化的営為を当事者らの生業観に位置づけて捉え直す試みは、これまでの民族誌研究で見えてこなかった伝統文化に対する彼(女)らの理念を理解することにつながる。
- コメンテータ:田本はる菜(筑波大学大学院・人文社会科学研究科・博士課程)
15:00 -15:30 著者解題( 30 分)
- 著者:塚原伸治(東京大学東洋文化研究所・特任研究員)
15: 30- 17: 00 コメント+質疑応答
- コメンテ ータ①:青木隆浩 (国立歴史民俗博物館・准教授、地理学・民俗学)
- コメンテータ②:市野澤潤平(宮城学院女子大学・准教授、文化人類学)
17:30 - 懇親会
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(以下、参加記録です)
2015年2月6日、筑波大学総合研究棟A108にて、塚原伸治著『老舗の伝統と〈近代〉』(吉川弘文館、2014年)の公開合評会が行われた。当日は発表者とコメンテーターに加えて、筑波大学の教員2名、大学院生12名、学部生5名、さらに他大学から2名、出版社からも参加者があった。会場は満席となり、本著作に対する関心の高さを窺がわせた。
まず著者の塚原伸治氏(東京大学東洋文化研究所、特任研究員)は、単著刊行までの議論の変化の経緯について述べた。博士論文の段階では、生業における民俗学の研究史上の問題を出発点に老舗の問題へと発展するものであったが、単著では読者層を広げるため、老舗の議論を冒頭に据えるものへと論理構成を変えた、という説明がなされた。さらに著者自身の今後の研究課題として、以下の3点が挙げられた。①引き続き同フィールドで細緻な分析調査を行うこと。②老舗に比べ流動性を持つ商店街を追跡し面的な広がりという視点での町調査。③流通する金品などに着目した経済的な視点からの祭礼調査。
次に2人のコメンテーターからコメントが述べられた。まず市野澤潤平氏(宮城学院女子大学、文化人類学)は人類学におけるエスノグラフィーを銘打つ際には、老舗が持つ社会文化的背景や宗教的背景といった価値観の描写を細密に行うべきではないかとし、伝統や老舗の理論や概念を追及するものか、細やかな事例描写を中心に述べるのかのいずれかに方針を定めるべきと指摘した。また、単著においては「経済合理性」と「伝統」を対立軸とした議論がなされているが、伝統は「非合理的」なものとは限らず、必ずしも対立関係にはないとした。単著で指摘した事例は経済学の用語に収まるものもある。しかし、その中でも経済学の用語や伝統の合理性の中でだけでは捉えきれない「非合理的」なものは実際にあるのだろうと推測し、それを細密に描写し、分析していくことの中に研究の面白さがあると今後の可能性を示唆した。
次に、青木隆浩氏(国立歴史民俗博物館、地理学・民俗学)は準備した詳細なレジュメをもとに、以下のようなコメントを述べた。「伝統」や「老舗」という言葉を多用しているが、これらの語彙は一般にあまりに多義的に用いられるため学術用語として使うことが出来ない。むしろ、曖昧な言葉に対しての定義づけや言葉の使用を放棄し、別の言葉で解釈していくことが必要と指摘した。総評として、参照すべき既存研究の比較考察が欠けているため、論点が明確となっていないと指摘した。一方で「アクシデントへの対応」や「伝統的商慣行の選択」「伝統が独立してふるまっている」という指摘は、老舗研究にとって極めて重要な課題であり、今後も論理を明確にして展開したら、よりよい研究として発展が見込めると評価した。
最後にフロアを交えてディスカッションが行われた。フロアからは、タイトルを〈近代〉としたことのねらい(近代とは何なのか、山かっこを付けた必要性)はどこにあるのか、冒頭の先行研究の整理において古い伝統論の批判をしたにもかかわらず、後半の記述には古い伝統論を前提としているという誤解を招いてしまうものがある、などの点が指摘された。最後にフロアの武井基晃氏(筑波大学、民俗学)から、「狭い民俗学に囚われる必要はない」として、以下のメッセージが述べられた。著者の老舗研究は狭い民俗学の中ではオリジナリティがあるが、民俗学の伝統論などの議論形式の枠を取り払ってみた際、他分野の老舗研究の中では十分に独自性と存在を示せてはいない。だから今後は民俗学というベースを持ちながらも学際性を持って活躍してもらいたい、その上で民俗学の学会にも目配せをしてもらうことで、隣接分野の人類学を含めた様々な学問分野を横断しながら、民俗学に新たな風を呼び起こす存在になってほしい。
終了後には和やかに懇親会が行われ、参加者同士の交流を深めた。
(文責:黒河内貴光(筑波大学大学院))
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